2017年2月14日火曜日

川に生きる

茨城県立歴史館の前はよく通りますが、入ったのは初めてでした。
ミュージアムショップでは、過去の催し物の図録も売っていました。値段も半額くらいになっていたので、興味深い図録を、何冊か買ってきました。


その中の一冊、『海と川に生きる-漁具と漁法』(1998年)です。
面白いのは、この本を見ると、茨城県では川での漁がかなり行われていたことです。
霞ケ浦という汐入り湖や 、涸沼(ひぬま)をはじめとする大小の沼や池、そして大きな川のほとりには漁民が住んでいたかもしれませんが、もしかしたら、農民による漁労も盛んにおこなわれていたのかもしれません。

それに比べると、瀬戸内海の漁師町出身の祖母に育てられた私は、小さい頃は海の魚だけを食べて育ちました。
川魚は、釣って遊びましたが、食べる対象ではありませんでした。川や農業水路では、コイ、フナ、ナマズ、そしてウナギも獲れましたが、決して食べませんでした。

東南アジアのタイやカンボジア、そしてとくに内陸国のラオスでは、川での漁は、海での漁よりずっと盛んで、川魚の種類も豊富、おいしい魚がいっぱいありました。
カンボジアで、あるとき海辺の町シハヌークビルに転勤になった同僚のカンボジア人の、結婚間もない新妻が、なぜか夫を置いて、プノンペンに逃げ帰ったことがありました。理由を聞くと、海の魚は口に合わない、川魚の食べられないところでは、とうてい暮らしていけないというもので、本人には悪いけれど、大笑いしたものでした。

メコン川をはじめ、たくさんの支流が網の目のように走っているカンボジアでは、食卓に上る川魚だけで数百種類もありました。
川魚は普通、たらいや大きいバケツに入れて、生かしたまま売ります。生魚のほかにも、漬け込んで発酵させたもの、干物にしたものなどなど、魚売り場には大小、さまざまな魚が並んでいました。

国文学研究資料館

図録、『海と川に生きる-漁具と漁法』の中には、川で使う漁具がたくさん載っていました。

ウナギダル、竜ケ崎市歴史民俗資料館蔵
 
カニズ、神栖市歴史民俗資料館蔵

ウナギダルにカニズです。


驚くことに、我が家にある、川魚の筌(うけ)とカニの筌が、どちらもタイのものですが、ウナギダルとカニズにそっくりなのです。


ただ、この筌は、ウナギ用ではないのでしょう、底からではなく、胴から魚を取り込みます。
ブリラム県の友人パンさんがつくったもの、補強のために巻いている白っぽい部分は、削った木を使っています。
パンさんは、もっと細長いウナギ専用の筌もつくっていました。


底は、魚の取り出し口になっています。
パンさんは、村で農業をする傍ら、占い師もしている、歯医者もしている、そして漁具もつくって売って(たぶん)いた、手先が器用で、好奇心いっぱいの何でもできる人でしたが、数年前に亡くなりました。
困ったとき、よく占ってもらっていた私は、占い師は自分の運命は占えないのかと、残念に思ったものです。


肥料(農薬?)の空き袋を利用したカニの筌は、タイのどこかの町の荒物屋で売っていたものです。


泥に刺して止める串がついています。


これもパンさんのような器用な農民がつくって、お店に出していたのかもしれません。

神栖市歴史民俗資料館蔵

そして、図録に載っていたエビズです。


カンボジアの、川エビの筌と、なにからなにまでそっくりです。



メコン川の支流の地域に行ったとき、河原にうずたかく積み上げていた筌。
譲ってもらおうと、お願いしたら、
「持って行け」
と言われていただいたものです。
カンボジアでは、川エビの筌は自分でつくりますが、図録にも農閑期に自分でつくったと書いてありました。そんなところまで、そっくりです。


このエビの筌は、針金で組んであります。
氾濫する川の近くに住む人々は、雨季に増水してきたら漁師になり、水が引いたら農民になります。
その間、たぶん乾季のあいだに、たくさんの筌をつくったり修理したりしているのです。

茨城県立歴史館蔵
 
千葉県立大利根博物館蔵

上の二つはミアミ、沼の魚を泥とともに掬い取る道具です。


このカンボジアの漁具のミニチュアの、右上が魚すくい籠(=ミアミ)でしょうか。
このような漁法も、タイなどではよく見られます。

魚ふせ籠、茨城県立歴史館蔵

さて、日本にはこんなのもあったんだと驚く漁具です。
タイやラオスではおなじみの上と下が開いた籠で、川の浅いところや、田んぼや水を抜いた沼で、魚がいそうな場所にかぶせて、中に手をつっこみ魚をつかむ道具です。
一つ上の写真の、ミニチュアの中の、一番下の漁具です。
 

茨城県の漁業に関する展示は、この1998年の、海と川に生きる-漁具と漁法展が初めてだったようです。
それにしても、漁業はいろいろな地域(たぶん竹の生える地域)で、似ている点が多々あります。あまりの面白さに、わくわくしてしまいます。







4 件のコメント:

あかずきん さんのコメント...

竹細工のランプシェードに最近魅せられて感動したのですが
漁具といっても芸術品ですね~
美しいと思いました^^

最後の画像奥の方に凛と立っているのは与さんのお人形みたいで
素敵なシルエットですね^^

さんのコメント...

あかずきんさん
漁具は美しくて奥深いです。
カンボジアでメコン川を船で行っているとあちこちに、大きな漁具が見えます。人が入れそうなのもあり、体長2メートルとか3メートルの魚も捕るのかと、わくわく見ました。
漁具とは思えないほど美しく作ってあるのもいいし、手作り感あふれているのも好きです。

後ろの人形?与さんに触発されて人形を作り始めたという五味渕孝さんの人形です。以前、留守中に野良猫が入り込んで落とし、顔をなめたりして、戦災孤児のような姿になってしまったのを、作家さんに直していただいたという経緯があります。

Bluemoon さんのコメント...

後ろの人形、気になっていたんです。春さんに、どこから来た人形なのか聞いてみようかなと思いながら聞きそびれました。野良猫、そういうことがあったんですね。人形さんはたいそう嫌だったでしょうね。

さんのコメント...

Bluemoonさん
夏のことで、しかも長期に家を空けた時、網戸を突き破って入り、我が家のトラをいじめるだけでなく、人形もいじめたようでした。どうして人形に興味を持ったのか、顔も服も髪も手足もなめてめちゃめちゃ、作家さんは、最初はあっけにとられたようでしたが快く、ほぼ全体にわたって直してくださいました。
二本足で立っていますが、激しい地震でも倒れません。
その野良猫は、二つある犬猫出口の一つから入ってくるので、それからずっと夜はそちらの方は閉めています。我が家のトラは、自分の家の庭なのに、ほかにもうろついている猫全部を怖がって逃げまくり、腹いせに犬のウナギにちょっかいを出しています(笑)。