2015年8月31日月曜日

デンマークの民具

五年前、アンとイエンスが我が家に来たとき、スウェーデンの弁当箱を見せたことがありました。
蓋の開け方が独特な弁当箱です。
「そうそう。昔は、職人さんがよくこの形の弁当箱を持っていたよ」
そんな話を聞いた時は、たまたまスウェーデンの弁当箱を、イエンスがデンマークで見かけたぐらいに思っていました。

だから、デンマークに行くと決まった時にも、この箱のことは頭にありませんでした。

ところが、コペンハーゲンのアンとイエンスの家で、見せてくれた箱は、スウェーデンの箱と同じつくりで、しかし、わりと大きいものでした。
「これ、お弁当箱じゃないよね。ずいぶん大きな箱だこと」
「そうだねぇ。うちでは、ただの箱として使っているけど」
「これ、デンマークの?」
「そうだよ」

デンマークとスウェーデンはすぐ近くです。


ハムレットのクロンボー城からは、スウェーデンの港が、手に取るように見えます。
左がスウェーデン、海上の大きな船は、一日に何回も行き交っているフェリーボートです。

そうか、デンマークにも同じ形の箱があったのかと、そのとき思いましたが、まだ半信半疑というか、頭に入っていませんでした。

 
ところが、野外博物館に行くと、同じつくりで、しかもお弁当箱ではない箱がいくつかありました。
やっと、デンマークにも、同じ形の箱があったことを納得しました。
これは楕円ではなくまん丸な箱でした。


この箱の特徴は、留め具でぴったりしめることができ、蓋についている持ち手を持って、持ち上げることができることです
箱の曲げ木は薄いので、蓋の留める留め具のつけ方に工夫があります。


これもわりと大きな箱でしたが、持ち手のところが、中途半端な形をしています。
持ち手が、とれてしまったものでしょうか。


もっと大きい、長径が40センチ近くある箱も、持ち手が取れてしまっていました。
この箱は、持ち手をぶら下げると、片手で運べるので便利ですが、欲張って重いものを入れると、壊れてしまいます。


ただの曲げ木の箱は、大きいの小さいの、オーバルの丸いの、いろいろありました。


この蓋を見ると、薄い板をつくるとき、削ったのではなく裂いてつくった、へぎ板であることがよくわかります。


箱についている糸や針金は盗難防止のためのものです。
野外博物館は入場料がただ、入口の検査もないのに、こんな細い糸だけで盗難防止をしているのですから、じつにおおらかなものです。


パン生地をこねる、木彫りの台。


パンづくり、バターづくりなど、生活に欠かせない道具には、それぞれに家に、それぞれの工夫がありました。


バターやチーズづくりの道具。


バターやチーズづくりの道具や、匙など。


筋がついたへらは、バターを丸めるものです。
同じへら二つでバターをはさんで丸めていると、バターボールができます。


できたバターを入れて抜く、バターの型。


木杓子も、うぅん、素敵!


これは、いったい何なのか、イエンスが、
「触ると非常ベルが鳴るぞ」
と脅かすので、冗談とは思いながら手にとっては見ませんでした。



脅かされたにもかかわらず、模様を彫った箱を少し開けてみたら。中には仕切りがありました。
スパイス入れだったのでしょうか?


こんな杓文字立て、杓文字ともども欲しくなります。


ライ麦パンを切る道具も、素敵です。


ライ麦パンは固いので、これは手前の爪を台にひっかけるように工夫されています。
右にちらっと見えているのは、ハーブチョッパーです。
ハーブチョッパーはデンマークにもあったのか、あるいはイギリスやスペイン、イタリアなどからの輸入品かもしれません。


何を切るのかわかりませんが、このカッターも素敵です。
日本の、鶏や牛の餌を刻む、飼葉切りのようなものでしょうか。


赤ちゃんの揺りかごと糸紡ぎ機が置いてあった部屋には、
 

お手洗いも置いてありました。
中にはバケツか、あるいは桶が入っていると思われますが、開けてみませんでした。

これを見ると、苦い思い出がよみがえってきます。
ガーナにいたころ、ホテルは首都アクラとクマシにくらいしかなくて、北に旅する時は、政府のゲストハウスがあるところにはそこに泊って、ないところでは、車の中で野宿でした。
その、ゲストハウスのお手洗いが、このタイプなのです。ここで用を足すと、あの管理人のおじさんが外へ持って行って、捨てて洗うのだと思うと、若かったせいもあり、なかなか用を足せませんでした。
かといって、外で用を足そうと思うと、誰もいなかったはずなのに、どこからか誰かが見ています。用を足すのが、一苦労でした。


洗濯の道具、叩いて、伸ばします。


盥。


これは洗濯槽。
汚れものを入れて、ゆさゆさと内側の部分だけゆらします。


そして、これで絞ります。
イエンスは、屋根裏部屋の工作室に同じものを持っています。版画に応用できないかと思っているのですが、まだできていないそうです。


織物道具も、手づくり感溢れるものがいろいろありました。
糸巻き機。


あの、小さな島の小さな家のかせ繰り機です。


これは美しい、すてきな綜絖(そうこう)でした。
帯を織る道具です。
小さな穴と筋状に開いた穴に経糸(たていと)を通し、緯糸(よこいと)を一本通すたびに綜絖を上げたり下げたりすると、筋状の穴に通した糸は、小さな穴に通した経糸より上に行ったり、下に行ったりして、織りものができます。

ミレベルカより

おりしも、チェコの手芸材料店ミラベルカが同じような綜絖を掲載していました。
綜絖の下に見えるのが、これで織った帯です。
このチェコの綜絖の、真ん中あたりの穴が長くなっているのは、模様織りをするためです。 

同上、ミラベルかより

こうやって、片方は身体にくくりつけて経糸を張り、綜絖を上下させて織ります。
 

あの、ヨーロッパの天秤棒もありました。


小さな島の小さな家の道具たち。
全部、流木でつくったのでしょうか。木肌がとても素敵でした。










2015年8月30日日曜日

デンマークの民家


コペンハーゲン郊外の、野外博物館(民家園)には、デンマーク各地の伝統的な民家を移築してあります。
建物の時代としては、250年前から、120年くらい前のものでしょうか。
 

広大な敷地内を歩いて回るには、膝を痛めている夫の脚が心配と思っていたら、タイミングよく馬車が来て、乗せてもらいました。
 

野外博物館の中には、羊や鶏が馬が飼われ、庭には果樹を植えたり野菜を育てたりして、当時の生活を再現しています。


途中で馬車を降ろしてもらいました。


目についた家から入ってみます。
台所に置いてあるのは、金属や素焼のお鍋です。
 

寒くないようにという配慮でしょうか、囲まれたベッドが多くありました。
それにしても、昔の人は背が低かった。今の人なら脚を折り曲げないと寝られません。

ときおり、小学生や幼稚園児たちの集団(と言っても、10人から20人)が見学に来て、にぎやかに通り過ぎて行きます。
子どもたちは先を急いだり、おしゃべりが楽しかったりして、家を見ている子は、あまりいないようでした。


当時、このような絵タイルは、すべてオランダからの輸入だったそうです。
この家の主人は、広く貿易をしていたようでした。


というのも、タイルの壁の脇に掛けられていたのは、キューバのバハナの町を描いた額でした。


庭には、養蜂箱が立っています。
 

どの家も、石畳と草葺き屋根が素敵です。


清潔な家畜小屋。
 

かつて、台所の竈は、家の暖房も兼ねていました。
  

どの家も納屋が大きく、家畜を大切にしていた様子が見てとれます。
 

ロの字型に建てられた大きな家の一部と中庭ですが、建物はすべて家畜小屋と納屋です。


納屋の中には、農作業の道具や、鋸などの大工道具が置いてありました。


小さな島の小さな家は、とりわけ興味深いものでした。
傾斜地に建ち、上から見ると、土の面と土を乗せた屋根が続いて見えます。
ローラ・インガルスの『大きな森の小さな家』のシリーズの、『プラム・クリークの土手で』の表紙絵にもなっている、ノルウェーからの移民の家に通じるものがあります。


といっても、斜面の低い方から見ると、普通の家です。


敷地の中には、石を積んだ物置小屋や、小さな水車小屋も建っていました。


物置小屋の入口。
土を乗せた屋根の防水に使っているのは、白樺の樹皮です。


母屋の屋根の防水も白樺の樹皮です。


この家の中は、こじんまりと懐かしい感じで、結婚したばかりの若夫婦と赤ちゃんが住んでいたのにふさわしい家でした。
「この家を見ると、日本の家を思い出すよ」
と、イエンス。
確かに、まるで囲炉裏と自在のようでした。


この家が建っていたのは小さな島だったので、建築材料と言えば、拾った石、島の外から買ってきた材木と、島に流れ着く流木だったそうです。
「へえぇ、流木でできているの」
家のどこを見ても、木の細工の見事さが目立ちます。


ドアのちょうつがいは、真似してみたいものでした。


各所には、折り畳めるテーブルが備えてあります。
ここは作業場ですが、食卓も折り畳めるようになっていました。


小さな島ですから、夫は漁師さんだったのでしょうか?
羊を飼っていて、妻は糸を紡いで布を織ったのか、織り物の道具もあります。
これらも流木でつくったのか、不定形でした。

こんな家に住んだらどんなに楽しいだろうと思われる工夫が、いたるところに見られる家でした。


イエンスが見せたがっていた、屋根に海藻を乗せた家は、残念ながら改装中で中に入れませんでした。


不思議な家です。
海藻は、断熱のために乗せたのでしょうか?


というのも、海藻をためておく納屋(人は住まない)の屋根には、海藻を乗せていませんでした。


既成品で買ってきたガラス窓が、自然木の曲がりに合わせて、水平でも垂直でもなく、でこぼこと曲がっている家が多かったのも、新鮮でした。
なんでも垂直、水平にしなくていいって、おもしろいことでした。